From GOAT Vol.1

WEBライターの心音（ここね）は、ひょんなことから心臓の音を録音したCDと出会った。本に挟まれていたそのCDは、見知らぬ他人の命を刻んでいる。その音の所在を求め、心音は海の果ての小さな島に向かった。

それは“推し”のすべてを見届けたいがゆえの愛なのか。はたまた行き過ぎた付きまといか。 すべては作家・角谷桃の熱烈ファン「麺マスター」のブログから始まった。

ライブハウスの扉を開けると歓声と熱気、爆音が体を包む。音に支配され、自分が自分でなくなることに怯える「私」と恐ろしい表情をして人波に飛び込むヒロ。そんな二人を「個体」としてモニターから調査する男がいた。

中学の同窓会のために帰省した浩介は、最近仕事を始めたという母の言葉に驚く。父は「女は働きになんて出ないもの」という価値観の持ち主だったからだ。その夜、父とふたりになった浩介が母の仕事のことを尋ねると、父はある秘密を教えてくれた。

旧友たちから盗んだ小さな海でたゆたいながら、思い出すのは彼のこと。僕が「一番風呂泥棒」という奇妙な趣味を始めたのは、１年ぶりに稼働した大学同期５人のグループラインがきっかけだった。

愛に満ちた悲嘆に蝕まれながら、私はこれを書いている。もし私が失敗した時、弟が私に語った「大いなる変化」を生き延びた誰かが、この研究所に足を踏み入れ、人類が生き延びるすべを正しく理解することを祈りながら。

2024年3月Ｘ日、春日陽太郎は50歳の誕生日に恋をした。これこそが本当の、初めての恋だった。まるで天使のような子だった。その天使の名はココ。二人が出会ったのは五反田のラブホテル。ココは、デリバリーヘルスに勤める風俗嬢だった──。

介護士の朝岡は週に２回、要介護２の一人暮らしの女性が住む四角い巨大な箱のような家に通っていた。内部は開放的ながら外見は要塞のようで、５ヶ月経っても自分がどこにいるかわからなくなることもあった──。

宇田が家事代行マッチングサービス「カジット」で、家政婦として働き出したのは七年前。素朴な出で立ちや気取らない料理が受けたのかすぐに常連の顧客が増え、今では予約の取れない人気家政婦だ。訪問先へ向かう途中、ある一軒の家の前を通った。

現在平均23人の恋人がいるとされている明日香は、自分を自分のまま愛してくれる男の子を探している。彼らのために生活や肉体を差し出し続け、自分自身を失っていくことが、明日香の人生における至上の喜びなのだ──。

大学生の〈私〉の部屋に毎晩のようにやってくる友達ミミ。大学の友達というわけではなく、地元が同じという共通点も不確か。何かがすべておかしくて、刺激的なのにセーフティな彼女との記憶。気鋭の著者が「ひと」を描いた新境地作。

支配的な姉に、隠れる弟。双子の姉弟が迷い込んだのは、「芸能界」という名の御伽の国。　むかしあるところに、元モデルの母を持つ、見目麗しい男女の双子がおりました。弟の十斗は気が弱く、いつも姉の桃亜の言いなり。

新居に引っ越してきたばかりの30代半ばの夫婦。荷解きの最中に妻が見たのはリビングに佇む女の幽霊だった。本当は見えているはずなのに見えていなと主張する夫。夫婦の関係に亀裂が走る一方で、妻は幽霊と奇妙な絆を築いていく。

北海道北見市にある図書館で講演会を依頼された小説家の春諏訪石句。彼は志賀直哉の短編「網走まで」に登場する子連れの女が気になり、上野から北見まで彼女たちと同じ経路でやってくる。

竹本座も豊竹座も廃座になり、落ち目をたどる操り浄瑠璃の人形遣い、吉田紋寿郎。腐れ縁の幼馴染・並木容は、見習いながらも仕立てた歌舞伎芝居は軒並み大当たりの狂言作者だ。

「GOAT」刊行記念、書き下ろし掌編！山羊は、いつでも面白い物語を探し求めています。なぜなら、それを食べると、心もお腹も満たされるから。きょうは、どこに探しにいこう……？　やがて山羊が見つけたのは、野原にたたずむ、ひとつの家でした。

台日作家交流論壇のトークイベントに登壇するため、はじめて台湾を訪れた著者による紀行エッセイ。小説で世界をひっくり返したい。物作りをする者同士だからこそわかる焦燥と悲しみに似た祈りが、台湾の地を熱くしていた。

視覚に障害があり文字を読めない。文字は追えるが、そのまま理解するのに困難がある。そうした方々は、紙やタブレットに表示された文字情報を音声・点字などに移しかえる、もしくは読書補助具などを用いることで、はじめて本を「読む」ことができる。

〈私が音声図書について調べはじめたのは、事故で後天的に視覚障害を負った叔母がきっかけだった〉。彼女は、最新作を音声図書で「読書」し、毎回、感想を送ってくれるという。